blank_logo  <舞-HiME SS>
月蝕
 


静謐な光が夜に広がる。
天空を支配する、皓々とした真円の月。
その左端に微かに影が掛かる。

左手で艶やかな黒髪を梳き、囁くように名を呼びながら、ほんのりと紅く染まった柔らかな頬にその手を添えた。目を伏せそっと静かに口付けると、微かに震える唇に己の唇が優しく食まれる。
応えられた甘さに気が遠くなる。応えるとまたぎこちなく啄んでくれる。ふいに泣きそうになった。叶うことのない想いだとあれほど‥‥
衝動に駆られ深く口付けかけると、逃れるかのように身じろぎされた。
それが切なくて動けなくなる。
不安になって顔を少し離すとなつきに見つめられた。顔を真っ赤にしていたが、困ったような瞳で照れたように微笑んでいた。それに安堵して、またそっと口付ける。静かに食み返してくる唇。胸の内が痺れる。愛おしさに狂いそうになる。
焦ったらあかん。
そう自分に言い聞かせながら穏やかな口付けを幾度も幾度も繰り返す。
好きだと。愛しいと。だから‥欲しいと。
名を呼び掛けながら幾度も幾度も唇に口付けを落とす。
風呂上がりの髪から少し湿った愛しい香りがする。
堪え切れずに舌でゆっくりと唇をなぞると微かに吐息が聞こえた。
その吐息に震えがくるほど胸が詰まる。少し開いた唇を奪ってそのまま舌を忍ばせた。
ぴくりと震えたのは分かったが今度は止めなかった。


月の白いおもてに影が重なってゆく。
光の弱まった月は薄紅く染まっている。

ぎこちなく、それでも自分からも舌を絡ませて応えてくれる。
それが幸せ過ぎて思考がぼんやりするほど満ち足りているのに、身体はもう戻れなかった。
口付けながら顔をずらしてゆっくり左の耳朶を啄む。びくりと身を震わせながら小さく零れる吐息。それがもっと聞きたくて囁きかけながら舌先で耳を愛撫する。
切れ切れに聞こえる浅い息に、どちらが何をされているのか判らなくなる。
腕を抱いていた左手で服の上から綺麗な形の控えめな胸を包む。びくっと硬直する身体。
安心させたくて、もう一度唇へ優しく口付ける。そして深く口付けを交わす。
緊張していた身体から段々と力が抜けるのが分かった。
うなじへ、そして鎖骨へと舌を沿わせる。
慣れない刺激に堪え切れないのか、なつきが少し逃れるように身を捩るのを、右手でなつきの左手首を掴み身体に体重を掛け押さえ付けた。優しくしたいのに感じて欲しくておかしくなりそうだ。右手をずらして指を絡ませる。名を呼びながら薄らと汗ばんだ白い首筋に口付ける。そうしてゆっくりとゆっくりと愛してゆく。徐々にぴくりと反応し熱を帯びてゆく身体と聞こえる浅い吐息に、自分の身体も熱くなる。吐息が重なってゆく。
ずっと触れずにいた、薄い布越しにも既に硬くなっているのが解る右胸の先端を食む。びくんとなつきの背中が跳ね初めて声が漏れた。しずる、と制止を懇願するような囁き。その声音の甘さに背中にぞくりと痺れが走る。もう止めることなどできはしない。ゆっくりと身体を開かせてゆく。


光をなくした月は紅。
漆黒の夜空にぽつんと浮かぶ、光を返さぬ真円の仄暗く紅い月は現のものではないようだった。

夜風のような綺麗な髪に重なって薄茶の髪が乱れて広がる。
重ねた肌の熱さを確かめたくて何かを探すように指を動かす。その度に揺らぐ火照った身体。
甘さを帯びた苦しそうな声に頭の中が赤く霞んでゆく。
汗にまみれ、しがみついてくる腕の熱さに息が詰まる。熱の篭った声で名を呼び掛ける。その響きまで愛しい。眉根を寄せて苦悶する顔を見ているだけで自分までどうにかなりそうだ。 互いの熱に浮かされたように名前を呼ぶ。もうその名しか浮かばない。悶える身体を逃がしたくなくて抱きしめる。汗を帯びた髪の香り。腕の中が熱い。何もいらない。何ひとつ代わりにはなれない。今腕の中にあるただひとり。だから──
指先から逃げまどうように声を洩らした震える身体を、そっと抱きしめた。


蝕もほとんど明けかけた月は、淡く透けるような白い色。
映った影が黒く滲む。
光を取り戻しかけたが故に闇は一層深く沈む。

満ち足りているはずなのに、心はどこか逡巡している。
本当にこれでいいのかと。自分の想いが、ただひとりの大切な人を壊しているのではないのかと。それでもこんな風にしかいられない。
不意に頬に手を添えられ、視線を向けると気使うような視線にぶつかる。
頬を優しくそっと撫でられた。照れているのか少し顔を赤く染めて、それでも真直ぐな瞳で微笑んでいる。思わず無理に微笑み返すと、そのまま軽く口付けられた。思いもかけない行動にびっくりして頬が火照る。
柔らかく抱きしめてくれた腕に身を預けて、その腕の温かさに満たされてゆく。このままでいいのだと許された気がした。誰に許されなくても、この腕が許してくれるのならそれでいい。

蝕は明け、夜の闇の中。
日の光には到底及ばない。
けれど、それでも月は明るく世界を照らしている。

(了)






あとがき

読んで頂き、ありがとうございました。
このSS、なぜ番外なのかと言いますと、
このSSは単純に「静留に想いを遂げさせたい」だけで書いたので背景も何もありません。いきなりベッドシーンなのはそのためです(^^;)
他のSSとこの話は私の中で繋がっていません。故に「番外」。

勿論この話のなつきは静留と好きの意味が同じです。
はい。勢いだけで書きました‥‥堪忍しとくれやすm(_ _;)m
月蝕を隠喩にする、という思いつきが気に入ったもので‥‥

ひたすら静留を幸せにしたい(笑)だけだったので、シーン故に18禁ですが色っぽさはなるべく抜きの方向で(^^;)
色気のあるものを期待していた方ごめんなさい。

‥‥想いの強さ故か、静留がせっかちな人になってますな(苦笑)

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