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germ
 


水晶宮の通路の向こうに見つけた姿に、ふと心が踊る。
中等部の制服。不機嫌そうな表情。向けられた真直ぐで強い視線。
周りの少女達には気取られぬ様、鮮烈な光を放つその瞳に思わず笑み返す。
ぷい、と背を向けて歩き出す後ろ姿。靡く素直な黒髪がガラス越しの光を反射する。
どこか孤独な背中が、目に焼き付いた。

「ほんま、おおきに。こんなに貰てしもてええんやろか?」

口々に告げられる祝いの言葉に答えながら、今日も会えた、と考える。
それだけで、どの言葉より嬉しい気がした。



終業式が終わった昼前、プール脇の女子寮へと向かう道の前。
冬も深まって、良く晴れ上がった空。乾いた風が厳しい。空腹のせいか、芯から染み渡るように一層寒く感じる。

何をしているんだか。でもなんとなく。
第一もう買ってしまった。時々弁当を作ってもらったりしているし。
帰るなら通るだろう。あと5分待って通らなかったら帰ろう。

「‥‥‥」

左手に鞄を持ち、制服のポケットに右手を突っ込んで、なつきは数歩足踏みをした。スニーカーの中、足の指先が痺れているのが解る。
風の中、5分は長かった。でも過ぎてしまうと短い。
どうしよう。帰ろうか。あと5分?

「‥‥馬鹿らしい」

なんでこういう時に限ってあいつは来ない。いつもなら知らない内に視界に入っている癖に。

「なつき?」
「うわっ!」

なつきが慌てて振り返ると、薄茶の長い髪に、高等部のオレンジ掛かった明るい茶色の制服。目当ての人物。やたらと嬉しそうに微笑んでいる。

「こんなとこで、どないしはりましたん?」
「な、なんでそんな方から来るんだ」
「先生に頼まれて図書館寄って来たさかいに。ひょっとしてうちを待ってはったん?」

覗き込むように微笑まれる。思わずなつきはポケットの中の物を握った。

「‥‥‥」
「なつき?」
「別にっ」

なつきは思わず斜下に視線を落とした。

「そうなん? ほな、こないなとこに居たら風邪ひきますえ? はよ帰らんと」
「‥‥‥」
「‥‥ほな、うちはもう行きますえ?」

そのまま立ち去りかける静留に、なつきは思い切ったように顔を上げた。

「昨日!」
「え?」
「いやだからおまえの取り巻き連中がおまえにおめでとうって言ってたからそれで」

怒ったような顔のまま、なつきは紅い頬をして一気に捲し立てた。静留はきょとんとした表情でなつきを見ている。なつきはそのまま俯いた。

「その、知らなかったんだ‥‥誕生日おめでとう」
「──おおきに。嬉しい」

なつきはごそごそとポケットから小さなベビーピンクの紙包みを出した。さっき握ってしまった所為で、ラッピングに皺が寄り、シールで貼られたリボンが折れている。

「あ‥」
「これ、うちに?」
「え? うん‥」
「ほんまに? いやぁ、嬉しいわぁ」

なつきが包装の惨状に戸惑っていると、静留は気にもしない様子でとても大事そうにそれを受け取った。

「開けてみてもええ?」
「勝手にしろ」

なつきはそっぽを向きながら、本当に嬉しそうに笑うな、と思った。片手に鞄を持ったまま、かさかさと小さな音を立てながら、静留は丁寧に包みを開ける。

「いやぁ、かいらしハンカチやない。おおきに。ほんまに嬉しい」
「別に‥」
「大事にします。ほんま、おおきに」

少し照れくさくなってなつきは視線を落とした。
こんな風に人に手放しで喜んでもらう事などない。というよりも、人に喜んでもらうような事など縁がない。良いものだな、と、なんとなく素直な気持ちになって静留を見ると、静留は少しだけ、遠くを見るような目で考えるような顔をしていた。

「せやけど‥‥他の人にハンカチは贈らん方がええ思いますえ」
「え?」
「ハンカチ贈るんは、お別れの挨拶なんよ。涙拭くのに使てな、て」
「な‥‥かっ返せ!」

なつきは慌てて静留からハンカチを取り返そうとした。静留はひょい、と鞄とハンカチを背中に隠してなつきを見つめる。微笑んでいるのに、赤みがかった瞳だけはどこか悲しそうだった。

「違う! そんなの知るか!」
「良かった。せやったら大事に使わせて貰いますさかいに」
「もうおまえには何もやらない!」

心底安心したように静留は笑ったが、なつきは収まりがつかなかった。

「堪忍な。ほんまにそうやったら嫌やなぁ、て思ったさかい。そんなに怒らんで」
「ふん」

自分が原因なのは分かっていたが、折角プレゼントを渡したのに納得がいかない。なつきは踵を返して立ち去ろうとした。

「なつ‥」

ぐぅぅ‥

「!」

なつきは慌ててお腹を押さえた。思わず静留の様子を見ようと視線を向ける。それが返って自分の腹の虫だと証明しているようなものだと後から気付いてなつきは赤面した。

「せや。お詫びとお礼に、家でお昼ご飯食べていかへん?」
「‥‥‥」
「寒い中待っててもろたし、な?」

ほっこり暖かい笑みを浮かべて静留はなつきの腕を取る。なつきは渋々といった顔で呟いた。

「‥‥マヨネーズ」
「ん? ああ、ありますえ? 合うもん作りますさかいに」

何がそんなに嬉しいのか、楽しそうに返事をする静留を横目で見て、一体誰の誕生日なんだ、と、ふとなつきは思い、誰でもないと気がついた。静留の誕生日は昨日だ。


12月19日。もう覚えたぞ。
プレゼントを渡すかどうかは別にして、来年の誕生日には。
おめでとうくらいは言ってやる。
ふん。



(了)





後書き:

静留、誕生日おめでとう!

いちゃいちゃばかっぽー話を書こうとして挫折(やはり私には無理だった‥)
何故か「静留、なつきをお持ち帰り」話に(爆)
静留が高等部1年、なつきが中等部2年の設定です。
急遽書いた話なのでなんだかなぁ、って感じですが、祝わずにはいられない。
堪忍なー(汗)

初めはなつきも当日にお祝いする話だったはずなのに、自分のssが一日遅れになりそうだったのが影響し(爆)こんな話に。

2005.12.19

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